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 「決戦は金曜日」 (5/6)
 「姉ちゃん。昨日の夜、山中って奴から電話あったぞ」
「居ないって言ってくれたでしょうね?」
「ああ…… でも、その山中って人、えらくがっかりしたようだったけど。もしかして、姉ちゃんの彼氏? 喧嘩でもしたのか?」
「うるさいわね。そんなんじゃないってば! 何だっていいでしょ」
「大学生にもなって彼氏の一人もいないなんて悲しいね…… 可哀相だね」
「あんたみたいに取っ替え、引っ換えするような奴に捕まる娘達の方が、ずっと、 ずーっと可哀相だわ。さあ、もう出て行って! お姉ちゃんはもう帰るんだからね」
「そんなに遠い学校じゃないんだから、家から通えばいいのに」
「いいでしょ、私にも色々と都合があるの」
「はん、えらそーに!」
「口惜しかったら、あんたも大学に受かって見せることね。来年、受験なんでしょ? 部活ばっかりやってて大丈夫〜?」
「くっそぉ! 覚えてろよ、姉ちゃんっ!」
「はい、はい」

 弟の俊明はだだーっ、と部屋を出て行ってしまった。 昔からこいつはからかうと半ベソをかきながら反撃して、逃げて行くパターンは変わらない。そして、こんな情けない奴が学校では結構モテていると言うのだから、世の中は分からないものだ。

 こんなことはさて置き、私はこの一週間、実家に戻っていた。そして、誰に対しても私は居ない、と言わせていた。この突拍子のない言い分に首を傾げながらも従ってくれていた。山中ちゃんを始めとした何人かが連絡を入れてくれていたが、私はだんまりを決め込むばかりだった。

 この行動の理由はというと、実は私も知らなかったりする。 美奈が意味深に笑いながら言ったように行動しているだけだった。主体性がないと言われればそれまでだが、私ではどうすることも出来なかったのだから仕方ない。私は美奈に全てを預けたのだから、結果がどうなろうと絶対に美奈を恨むようなことはしない。分かっているのは、この不可解な行動の原因でもあり、結末になるだろう人物のことだけ。


 夕方の通勤電車の中、私は俊明の机からこっそり持ち出した曲を聴いていた。 その中の一曲に私は妙なものを感じずにはいられなかった。今まで見えてなかった複雑な問題の答えはとても単純で、実に照れ臭いものだった。指先の震えがさっきから止まらない。私は美奈に教えてもらったおまじない、手のひらに人という文字を三回書いて飲み込む、をやってみたが全然駄目だった。

 満員電車から押し吐き出されるようにして降り立ったプラットホームには、美奈が笑顔で待っていた。私はその笑顔に向かって駆け出した。



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